2025年10月6日
【新宿探訪記 vol.2】オフィスの近所は江戸の“リゾート地”だった!?
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〜西新宿に眠る、光と影の記憶回廊〜
編集部員藤原が寄せる「知ってた?」が「マジで!?」に変わる全5回の新宿探訪記、
前回は、私たちの働くオフィス一帯が、かつて巨大な「浄水場」だった!
という水の記憶を辿りました。無機質なインフラの歴史を知ることで、いつもの通勤路に新たな奥行きと実感が生まれていたら嬉しいです。
そして今回の第2回は、青梅街道を渡り私が済んでいる西新宿3~5丁目エリアへと足を踏み入れます。
オフィス街の喧騒が嘘のような、静かな住宅街。しかし、この穏やかな街並みの下に眠っているのは、浄水場とはまた違うもっと生々しくドラマチックな「人々の営みの記憶」です。
この静かな住宅街が、かつては舟遊びで賑わう江戸随一のリゾート地で、いつも何気なく上り下りしている坂道には、少しダークな伝説が眠っているとしたら…?
さあ、光と影が交錯する西新宿の、もう一つの物語を探る旅に出かけましょう!
第1章:幻の楽園『十二社』 — オフィス街に消えた、江戸のリゾート地
まず皆さんに、衝撃の事実をお伝えしなければなりません。
現在、新宿中央公園の西側──パワースポットとしても知られる熊野神社の一帯は、かつて『十二社(じゅうにそう)』と呼ばれ、江戸から明治にかけて最も華やかな景勝地・一大レジャーランドとして賑わっていたんです。

そこは「江戸の楽園」だった
十二社の中心には、「十二社池」という大きな池が広がっていました。

一松斎芳宗「十二社菖蒲の図」
その広さは、最盛期には現在の新宿中央公園の大部分を覆うほど。池には屋形船が浮かび、ほとりには「伊勢藤」「玉川」といった高級料亭や茶屋が立ち並び、夜ごと三味線の音が響き渡っていたといいます。その風光明媚さは「江戸の箱根」とも称され、歌川広重の浮世絵にも描かれるほど、江戸中の人々が憧れる行楽地でした。

今の、高層ビルと公園という風景からは、とても想像がつかないですよね。
よく散歩している中央公園のあたりが、浄水場だったこともびっくりしましたが、さらに遡るとかつては浴衣姿の男女で賑わう一大リゾートだったなんて…。
この事実を知った時の衝撃は、今でも忘れられません。
なぜ楽園は消えたのか?
では、なぜその華やかなリゾート地は、跡形もなく消えてしまったのでしょうか。
明治維新による社会の変化、周辺の工業化による水質の悪化など様々な理由があって、徐々にその人気は衰えていきました。
そして決定打となったのが、前回取り上げた「淀橋浄水場」の廃止と、それに続く新宿副都心計画です。昭和43年、高層ビル建設の槌音と共に、十二社池はその歴史的役割を終え、完全に埋め立てられてしまったのです。
しかし、その記憶は今も街の片隅に残っています。新宿中央公園にある「水の広場」や滝は、かつての池へのオマージュ。そして、この地の鎮守である「新宿十二社 熊野神社」は、江戸の昔から変わらず、この地の栄枯盛衰を静かに見守り続けています。

第2章:二つの顔を持つ坂道 — 『成子坂』の光と影
次に注目したいのが、青梅街道の急坂『成子坂(なるこざか)』です。この坂道には、全く異なる二つの時代の記憶が刻まれています。
【影の記憶】江戸の入り口の、ダークな伝説
江戸時代、この成子坂は甲州街道の裏道にあたり、江戸の出入り口の一つという重要な役割を担っていました。そして、当時は罪人が江戸市中を引き回される際のルートでもあり、この坂で一休みすることもあったとか。

さらに、この坂の名前の由来には少し怖い伝説も残っています。
昔、このあたりで盗賊に襲われた親が「子供だけは助けてくれ」と頼んだにもかかわらず、七人の子供が次々と殺され、その亡骸が坂に埋められたことから「七子(ななこ)の鳴く坂」と呼ばれ、それが転じて「成子坂」になった、という説です。
普段、多くの車や人が行き交うこの坂に、そんな物悲しい伝説が眠っているとは…。坂を上る足が、少し重くなるような話ですよね…。
【光の記憶】“チンチン電車”が駆け抜けた道
しかし、この成子坂は、暗い記憶だけの場所ではありません。
時代は進み昭和になると、この坂は活気あふれる「光の記憶」の舞台となります。
そう、第2回の旧原稿でも触れた、都電杉並線(14系統*です。 1963年まで緑色の“チンチン電車”が、この成子坂を力強く上り下りしていました。停留所は「成子坂下」。坂の下から見上げると、乗客をたくさん乗せた都電が、モーター音を響かせながら坂を上ってくる姿が見えたそうです。


江戸時代、罪人の列が通ったかもしれない坂を、昭和の時代には、人々の夢や日常を乗せた都電が走っていた。同じ場所に、全く違う時代の光と影が重なっている。これこそ、歴史のダイナミズムであり、街歩きの醍醐味だと思いませんか?
第3章:住人が教える!西新宿3・4・5丁目の「マル秘」情報
さて、ここからはこのエリアに住んでいる私だからこそ知る、令和の西新宿の魅力をお届けします!
1.歴史の“答え合わせ”ができるタイムマシン
この記事を読んで、「昔の十二社池の写真とか、都電が走ってた頃の風景とか、見てみたいな…」そう思った方もいるのではないでしょうか。
実は、オフィス街のすぐそばに、その願いを叶えてくれる“タイムマシン”があるんです。それが、「新宿区立角筈図書館」です。


【藤原的マル秘情報】 この図書館のすごいところは、ただ本が読めるだけじゃないんです。注目すべきは、「地域資料コーナー」。ここには、まさにこの記事で紹介したような、西新宿の歴史を物語る貴重な資料が眠っています。

古い地図を広げれば、かつての十二社池の大きさに驚かされるでしょう。昔の写真を見れば、成子坂を走る都電の姿に胸が熱くなるはずです。
私がこの連載を書くにあたっても、ここの資料には大変お世話になりました。まさに、新宿探訪の“答え合わせ”ができる場所であり、次の探訪への好奇心をかき立ててくれるんです。
高層ビル群の中にある静かでモダンな空間。そこでページをめくれば、いつでも江戸や昭和の新宿にタイムスリップできる。こんなに知的で贅沢な時間の使い方は、他にありません。ランチタイムに少しだけ、歴史の旅に出かけてみるのはいかがでしょうか。
■角筈図書館
| 所在地 | 郵便番号160-0023 新宿区西新宿4-33-7 |
| 電話番号 | 03-5371-0010 |
| アクセス | 【電車】 都営地下鉄大江戸線都庁前駅(A4出口)、西新宿五丁目駅より徒歩10分 京王新線初台駅東口より徒歩10分 JR新宿駅南口より徒歩20分 【バス】新宿駅西口(宿41、45)乗車:十二社池の上より徒歩2分 |
| 開館時間 | 火曜日から土曜日午前9時から午後9時45分 日曜日・祝日・休日午前9時から午後6時まで 開館カレンダー |
| 休館日 | 月曜日(祝日・休日の場合は翌日)、館内整理日(第2木曜日。祝日・休日の場合は翌日。)、5月、8月、11月、2月の第4日曜日、特別図書整理日(年間7日以内)、年末年始(12月29日~1月4日) |
2.「幻の楽園」の記憶を辿る、静寂の散歩コース
オフィス街の喧騒から逃れてリフレッシュしたい。そんな時は、第1章で紹介した「幻の楽園・十二社」の記憶を辿る散歩がおすすめです。まず、新宿十二社熊野神社で心を静め、そこから新宿中央公園へ。公園西側の「水の広場」や池を眺めながら、「このあたりが、江戸のリゾートの中心だったんだな」と思いを馳せてみてください。ただの公園散策が、一気に奥深い歴史探訪に変わります。

熊野神社の例大祭は、毎年9月中旬の土日に行われるので、是非参加してみてください!
https://yokoso-shinjuku.com/shinjuku-event/kumano-shrine-fes/
3.生活に彩りを与えてくれるベーカリー
住んでいたからこそ実感したのが、実力派のパン屋さんが充実していることです。代々木の方にもいくつかありますが、この辺りも侮れません。休日にベビーカーを押していると香ってくる焼きたてのパンの香ばしい匂い。私のお気に入りは、MORETHAN BAKERYの「中華パン」。まさかの本格的西洋風のベーグルに包まれたとろとろの餡が最高にウマいです。休日の朝、これを買って子供と一緒に中央公園のベンチで食べるのが、ささやかな贅沢ですね~。

ビーガン向けのベーカリーなので、健康にも優しい!
普段何気なく歩く道も、実は「歴史の舞台」だった!
いかがでしたでしょうか?
西新宿3・4・5丁目エリアは、一見するとただの住宅街かもしれません。
しかしその下には、舟遊びで賑わった幻の楽園の記憶、坂道に刻まれた光と影の歴史、そして今を生きる人々の温かい営みが、地層のように重なっているのです。
今回の探訪で、皆さんの「知ってた?」が一つでも多く「マジで!?」に変わったなら、私にとってこれ以上の喜びはありません。
【次回予告】 〜Vol.3 眠らない街の“もう一つの顔”〜
次回は、いよいよ新宿の心臓部!巨大ターミナルを擁する東口・南口エリアに潜入します。日本一の繁華街の知られざる歴史、進化を続ける街の秘密、そして“地下迷宮”の謎に迫ります。どうぞお楽しみに!
WInboardでは、皆さんの「知ってた?」や「マジで!?」を大募集しています!
この記事を読んで、「十二社池の話、もっと知りたい!」「あそこも取り上げて欲しい!」みたいな質問や感想があったら、ぜひコメントで教えてくださいね!
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次回も乞うご期待。


